相続関係の民法改正
2018年7月6日に約40年ぶりといわれる相続法の改正が成立しました。
今回の改正の目玉は「配偶者の保護」。テレビや雑誌で「もう夫が死んでも困らない?!」と特集、報道されているものをいくつか目にしました。
ここでは、その「配偶者の保護」をはじめとする今回の相続法の改正が具体的にどう私たちの生活にかかわってくるのかを見ていきたいと思います。
今回の改正の主なポイント
① 配偶者が自宅に住むことのできる権利「居住権」の新設
② 夫婦間の自宅の贈与が持ち戻しの対象外になる
③ 遺産分割前に預貯金を引き出せるようになる
④ 自筆証書遺言の財産目録をパソコンで作成できるようになる
⑤ 自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになる
⑥ 相続人以外の親族が介護や看病で貢献した場合、相続人に対して金銭の請求が可能になる
⑦ 遺留分の計算・精算がシンプルになる
まずは、配偶者を保護する制度「①配偶者が自宅に住むことのできる権利「居住権」の新設」について。(夫の相続で、妻と子が相続人になった場合を想定し進めます。)
「居住権」とは、妻が自宅に住み続けられる権利のことです。
期間は原則、妻が亡くなるまで。ただし、別途期間を定めることもできます。
では、これが妻にとってどう有利なのか?具体例でみてみましょう。
法定相続人 | 妻・子一人(法定相続分 各1/2) |
相続財産 | 自宅3000万 預金2000万 |
この場合、現行法では3000万の自宅を妻が相続すると、すでに法定相続分の2500万円を500万円オーバーしたことになり、子供に「きっちり法定相続分はほしい」と主張されてしまうと、妻は自分の預金から500万円を支払うか、それができなければ自宅を売却して分けることになり、生活の拠点を失うことになってしまいます。
しかし「居住権」を利用すれば3000万円の自宅を「居住権」900万円「所有権」2100万円というようにわけることができるのです。これなら、法定相続分通りであっても、妻が「居住権」900万円に「預金」1600万円も相続できることになり、老後も安心!というわけです。
ただし、妻が勝手に「私居住権もらうわ!」と決めることはできません。
「居住権」を相続するためには、他の財産と同様、遺産分割協議で法定相続人全員の同意を得るか、遺言書で指定されている必要があります。ちなみに「居住権」は配偶者だけに認められる権利です。
「居住権」をいくらとみるかの計算方法は今のところ確定されていませんが、相続時の配偶者の年齢に応じて計算されることになりそうです。
少し気になるのは、「居住権」のついている不動産が売却可能であるという点です。この場合、配偶者は「所有権」を取得した第三者に対しては「居住権」を対抗できないそうです。
これでは、何のために「居住権」を相続したのかわからなくなってしまいます。譲渡した人に対しての損害賠償請求は可能だとされていますが、自宅を勝手に売った子供に対して親が損害賠償請求をするなんて、すごい世界ですよね・・・ちなみに「居住権」は登記の対象となりますから、わが子が自宅を勝手に売ってしまいそうだと思ったら少なくとも「居住権」の登記をするべきということでしょうか。。。
この「居住権」の使い勝手ですが、個人的意見としては、通常の仲の良い親子であれば母親の住む家を守ろうとすることはあっても、取り上げようとする子がそんなにいるとは思えません。
考えられるのは、後妻と先妻の子というようなケース。居住権は、婚姻期間を問わず、自宅に住んでいた配偶者であれば適用できます。
親子の仲が良くなければ、遺産分割協議で「居住権」を認める可能性は低いですが、結婚間もない後妻に「居住権」を残すといった遺言書などがあると、かえってトラブルのもとになる可能性も・・・実際この改正がどのくらい有効活用されるかは疑問の残るところかもしれません。
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